ふと思い当たって、彼は細い腰に手を添えて軽く引いた。
不意打ちであったこともあって、その身体はたやすく胸元に収まる。
「…あの、キラ?」
突然腰を抱かれる形になったラクスは、少し頭を後ろに引いてキラを見上げた。
どうしたのか、と目線で問うてみるが彼はそれに答える事なく、何やら考える素振りで瞬きをしただけだった。
「キラ?」
「んー…」
再度名前を呼んでみたが、今度は短く唸るような声を出して僅かに眉を顰(しか)めた。
そして腰に添えられていた手が離れたかと思うと、今度は両手で腕まで囲んで抱きしめられる。
性別にしては細身で華奢なキラだが、それでも彼女の身体はすっぽりと収まった。
ぎゅう、と力を込めて抱き込むと、余計に彼女の細さが腕に伝わってきて更に眉間の皺(しわ)が深くなる。
それを隠すように彼女の髪に顔を埋めると、シャンプーであろう甘い香りが鼻腔をかすめた。
「…細すぎる」
ごく小さなそれは、それでも耳元で響いたのでしっかりとラクスの耳に届いた。
彼が何を指して言っているのか、聡い彼女が気付かないはずはなく、困ったように笑う。
それを気配で感じて、キラはそっとため息をつくと顔上げて視線を絡めた。
少しだけ咎めるような色を見せると、回されている腕をためらいがちに両手で掴かまれる。
これ以上責めるつもりはないので、代わりにきゅっと隙間なく触れるように抱きしめて寄りかからせる。
それは言葉よりも雄弁に「休め」と伝えてきて、ラクスは苦笑しつつも大人しく体重を預けた。
背中に感じる体温と回された腕に温かさに、無意識に目蓋が下がってきてどれだけ睡眠を削っていたのか実感する。
彼の甘やかすぬくもりに勝てるはずもなく、落ち始めた意識を無理に起こすことを諦めた。
僅かに残った意識の中で、そっと抱き上げられたこと、柔らかなシーツの上に下ろされたことだけを感じて、完全に眠りへと落ちていった。
目が覚めた時、一番安心するぬくもりと香りが、自分を包んでいることを無条件で確信していた。
久しぶりに見る熟睡しきった顔には、疲労が色濃く出ていて、彼女の無茶を如実に表していた。
抱き上げた時にキラの服を握った手は、眠りに落ちた今でも変わらず力を込めていて、彼女に離す気はないようだ。
それに微(かす)かに笑ってから、彼女の隣りに身体を滑り込ませる。
一人用のベッドの中で、起こさないようにラクスの身体を片手でしっかりと抱きしめた。
彼女が小さく身じろぎをして、胸元に顔を埋めるようにして落ち着く。
起きていないことを確認してから、片手を枕にして頭を固定し、すぐ下で香る甘い匂いを感じながらそっと目蓋を下ろした。
「安眠の条件」
ちょっとシリーズ的なのをやろうかなと。
色んなカプで、思いついたのから消化していきます。
まずはキララク。
とりあえずぎゅうぎゅうさせたかった(え
甘やかすキラと甘えるラクス。自己満足←